公開日: 2026年9月6日 / 最終更新日: 2026年9月6日
「うちのパートさん、来月から社会保険に入れないといけないの?」——2026年10月、社会保険加入の基準だった「106万円の壁」が姿を変えます。これまで賃金額で線引きされていた加入判定が、実質的に「週20時間働くかどうか」だけで決まるようになるためです。この記事では、何が変わるのか、自社のどの従業員が新たに対象になるのか、施行までに何を準備すべきかを整理します。
結論を3行で
- 2026年10月、106万円の壁の4要件のうち「月額賃金8.8万円以上」だけが撤廃されます。週20時間以上・雇用期間2か月超見込み・非学生の3要件は残ります。
- 全国で約200万人が新たに社会保険の加入対象になると見込まれています。自社では「週20時間以上働いているが月収8.8万円未満」の従業員がいないか、今のうちに洗い出しが必要です。
- 従業員50人以下の企業には、保険料負担を軽くする3年間の特例措置があります。就業規則・賃金規程の整備は2026年9月末までに終えておくのが目安です。
そもそも「106万円の壁」とは
社会保険の加入条件の基本(4分の3基準)や適用事業所の考え方は、社会保険の加入条件とは?対象者・適用事業所をわかりやすく解説で扱っています。ここでは「106万円の壁」だけをおさらいします。制度の詳細・最新情報は厚生労働省の社会保険適用拡大特設サイトでも公表されています。
正社員の4分の3未満しか働かない短時間労働者でも、厚生年金保険の被保険者数が51人以上(2026年8月時点)の「特定適用事業所」に勤務し、次の4要件をすべて満たすと社会保険の加入対象になります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上(年収換算でおよそ106万円)
- 雇用期間が2か月を超えて見込まれる
- 学生でないこと
このうち②の賃金要件が、俗に「106万円の壁」と呼ばれてきた部分です。
2026年10月から何が変わるのか
2026年10月の年金制度改正法の施行により、②の「月額賃金8.8万円以上」という要件が撤廃されます。残るのは①週20時間以上・③雇用期間2か月超見込み・④非学生の3要件のみです。
注意
賃金要件がなくなるだけで、週20時間以上・特定適用事業所勤務という条件自体はなくなりません。「106万円の壁」が消えるのではなく、「週20時間の壁」に姿を変えるとイメージすると理解しやすくなります。
最低賃金の上昇により、時給次第では週20時間働けば自然と月8.8万円を超えるケースが増えており、賃金要件そのものが実態に合わなくなっていたことが背景です。この改正により、全国で約200万人が新たに社会保険の加入対象になると見込まれています。
自社の対象者をどう洗い出すか
今から確認しておきたいのは、「週20時間以上勤務しているが、月収は8.8万円未満」の従業員がいないかです。次の書類・データを突き合わせて確認します。
- 雇用契約書・労働条件通知書に記載された所定労働時間
- 実際のシフト表・勤怠実績(所定労働時間と実労働時間が乖離していないか)
- 直近数か月の給与明細(月額賃金の実態)
特に、複数の部署・店舗でシフトを組んでいる場合や、繁忙期のみ労働時間が増える従業員は見落としやすいため注意が必要です。
保険料負担はどのくらい増えるのか
新たに加入対象になる従業員1人あたり、会社負担分としておおよそ次のような社会保険料が発生します(標準報酬月額による概算)。
- 月収7万円程度の場合: 会社負担 約1万円強/月(年間約12〜13万円)
- 月収8万円程度の場合: 会社負担 約1.2万円強/月(年間約15万円)
対象となる従業員が5人・10人と増えれば、年間で数十万円〜百万円単位のコスト増になり得ます。被保険者数50人以下の企業には、事業主が従業員負担分の一部を補填した場合に国が補助する3年間の保険料軽減特例(保険料調整制度)が用意されていますが、これは自動的に適用されるものではなく、労使合意(同意対象者の2分の1以上の同意)のうえで自社が任意特定適用事業所となる手続きを行った場合に利用できる制度です。対象になるかどうか、また手続きの要否を早めに確認しておくとよいでしょう。
従業員本人にとっての影響も忘れずに伝える
新たに加入対象になる従業員本人にとっては、毎月の給与から社会保険料が天引きされるようになり、額面が同じでも手取りが減ります。一方で、次のようなメリットもあわせて説明すると、不安の解消につながります。
- 厚生年金保険に加入することで、老後に受け取る年金額が上乗せされる
- 病気やけがで働けない期間の傷病手当金、出産時の出産手当金を受け取れるようになる
- 配偶者の扶養(130万円の壁)を気にせず、収入を増やす働き方を選びやすくなる
会社側の対応で終わらせず、対象になる従業員一人ひとりに「保険料はいくら増えるか」「その分どんな保障が増えるか」をセットで伝えることが、施行後のトラブル防止につながります。
施行までに企業が準備すべきこと
2026年10月の施行に向けて、目安として9月末までに次を終えておくことをおすすめします。
- 対象者リストの作成(前章の洗い出し)
- 就業規則・賃金規程の整備(社会保険料控除の反映等)
- 対象従業員への事前説明(加入のメリット: 将来の厚生年金の上乗せ、傷病手当金・出産手当金の受給資格等)
- 2026年10月以降の新規採用条件の見直し(社会保険加入ありを前提とした労働条件通知書の準備)
厚生労働省の社会保険適用拡大特設サイト(事業主・人事労務担当者のみなさま向け)には、対応チェックリストや制度の詳細資料が公開されています。
注意
保険料負担を避けたいからといって、会社側が一方的に労働時間を週20時間未満に減らすことは労働契約法上のリスクがあります。労働条件の変更には従業員本人との合意が必要です。合意なく一方的に行うと、不利益変更として無効と判断される可能性があります。
よくある質問
Q. すでに月収8.8万円を超えて働いているパートは何か変わりますか?
Q. 厚生年金保険の被保険者数が50人以下の会社は関係ないのですか?
Q. 従業員から「社会保険に入りたくない」と言われた場合、加入させなくてよいですか?
まとめ
- 2026年10月から、106万円の壁のうち賃金要件(月8.8万円以上)が撤廃され、週20時間以上・雇用期間2か月超見込み・非学生の3要件で判定されます。
- 「週20時間以上・月収8.8万円未満」の従業員がいないか、今のうちに洗い出しておく必要があります。
- 保険料負担の増加には、従業員50人以下向けの3年間の軽減特例があります。就業規則の整備は9月末までが目安です。